November 17, 2010

「INSPIRED」プロダクトマネジメントの必読書

Inspired: How To Create Products Customers Love

Inspired: How To Create Products Customers Love

本書「INSPIRED」はソフトウェア業界においてのプロダクトマネジメントを学ぶために必読の書である。著者のMarty Caganは、20年以上にわたり、Netscape、ヒューレット・パッカード、AOL、eBayといったシリコンバレーの代表的企業で働いてきた経歴の持ち主。もっとも最近では、eBayでプロダクトマネジメントおよびデザイン部門のシニアバイスプレジデントを務めた。

序章のところで、Martyはヒューレット・パッカードでの経験を語っている。

1980年代半ば、Martyはヒューレット・パッカードでソフトウェアエンジニアとして働いていた。会社の重要なプロジェクトを任せられ、素晴らしいチームメートと共に深夜まで、週末も犠牲にして一年以上も必至に取り組んだ。完成したプロダクトは会社の望むとおりの出来栄えとなった。ソフトウェアの国際化もし、数ヶ国語にローカライズした。セールスチームのトレーニングをし、プレスでの発表では素晴らしい反響をもたらした。プロダクトの出荷のための祝杯を交わした。しかし、問題がひとつだけ発生した。

誰も製品を買わなかったのだ。

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エンジニアがどれだけ優秀であろうとこうしたことは起こるのである。プロダクトのスペックは誰がどのようにして決めるのか、取り組むプロダクトが適切な仕様であるかどうやって判断するのか?上記問題は、こうしたプロセスをきちんと実行しなかった結果起こったのだ。このための重要な役割を果すのが「プロダクトマネジャー」なのである。本書では、製品開発におけるプロダクトマネジャーの正しい役割を定義し解説し、成功するプロダクトを開発するためのノウハウをプロダクトマネジャーの役割を中心に説いている。

私もシリコンバレーの老舗企業で10年以上ソフトウェアエンジニアとして働いた経験があるが、あー、これそうそう、という例ばかりが載せられている。プロダクトマネジャーの役割の解説が中心だが、もちろんエンジニアやエンジニアリングマネジャー、ユーザエクスペリエンスデザイナーなど製品開発に携わるチームメンバーならば誰もが読むべき一冊だと感じる。

「INSPIRED」は、Marty Caganがもともと個人のブログで書いた内容をまとめて出版されたものであり、英語版はアマゾンで購入できる。英語が苦手という人に朗報は、ついにこの本の日本語翻訳がウェブで隔週で少しずつ無料公開されることになった。公開サイトはこちら。私もほんの少しだけ翻訳に協力させていただいた。翻訳プロジェクトも終盤に近づいた頃に参加させていただいたので、今のところは訳し忘れになっていたブロックをところどころ訳させていただいただけなのだが、これから必要に応じてコンテンツのレビューもすることになっている。サイトの更新はメール購読することもできるので、ご興味のある方は是非!

今回、日本語翻訳で公開されたのは、ソフトウェア開発チームでの役割分担についてが定義されている第一章。プロダクトマネジャー、プロダクトマーケティングマネジャー、プロジェクトマネジャー。この辺りは企業によって役割の定義が違ったり、混乱も多い。私個人の経験では、プロジェクトマネジャー、プログラムマネジャー、エンジニアリングマネジャーの役割が混乱しやすく、皆で揉めあったのを覚えている。「他のチームのエンジニアとコンタクトをするのは誰の役割?え、エンジニアリングマネジャーでしょ、いや、それはプログラムマネジャーの役割だ。いや、技術の詳細を説明するにはエンジニアリング。」みたいに。

業界内で役割の定義のバリエーションはあるし、スタートアップではひとりひとりが幾つもの役割を担わなければならないだろう。しかし、タイトル云々ではなく、どのような役割を割り振る必要があるのか、なぜそうしなければならないのか、という疑問がこの第一章を読めばかなり明確になると思う。

November 11, 2010

TechStars と「起業にまつわる入門書」

TechStarsというのは、Y Combinatorのようなベンチャーファームでコロラド州のBoulderにオフィスがある。設立は2006年。Brightkiteなどもここ出身のスタートアップである。以下はTechStarsのウェブサイトから掻い摘んだ要点。
  • 主にウェブやソフトウェア関連のテクノロジーの企業が対象。
  • 各スタートアップで3人の創業者まで、創業者1人につき$6,000の出資をしてくれる(つまり最高$18,000まで)。
  • メンタープログラムへの参加および上記投資と引換に6%の株式を取得する。
  • 冬はNew York、春はBoston、夏はBoulder、秋はSeattleと季節によって活動拠点を巡回させて募集をし、各季節に3ヶ月の育成プログラムを選抜されたチームに提供する。
  • 各季節のプログラムに参加できるのは10社のみ。去年は600社からの応募があった。
  • メンタープログラムでは、週に2〜3回メンターを招待してカジュアルな形式でディナーを食べる。メンターは、成功した起業家、投資家、弁護士など多岐にわたる。
  • メンタープログラム終了後には、75%のスタートアップがエンジェルやベンチャーキャピタルから追加投資を受けるか利益を出す状態になっている実績がある。
  • 只今2011年のBostonとNYCでのプログラムの参加者を募集中

Y Combinatorとよく似ていますね。

MyBlogLogのファウンダーを招待してのメンタープログラムセッションの様子を撮影した録画がこちらにあるのでご興味がある方はどうぞ( 90分)。




Do More Faster: TechStars Lessons to Accelerate Your Startup

Do More Faster: TechStars Lessons to Accelerate Your Startup

TechStarsはシリコンバレーには拠点を置いていないが、ファウンダーのDavid CohenとBrad Feldが先月パロアルト市で開催した講演に参加する機会があった。彼らが共同編集した「Do More Faster」の出版記念も兼ねた会で、サイン入りのものをプレゼントに頂いのでちょっとご紹介。当然コンテンツは起業のノウハウにまつわるもので入門レベル。テーマごとにTechStarsのファウンダー、メンター、プログラム卒業生達が自身の経験からアドバイスを書き綴ったエッセイを寄せ集めて構成されている。各エッセイはどれも短くてコンパクトにまとまっているのが読みやすい。英語も平易なので英語をあまり読み慣れていない人でもすらすら読み進められると思う。エッセイの中身は実践的なものばかりで、これから米国で起業しようとする人が必ず直面するテーマが網羅されている。例えば、第六章の「Legal and Structure」は以下の7つのエッセイで構成されている。

Theme 6: Legal and Structure

  • Form the Company Early
  • Choose the Right Company Structure
  • Default to Delaware
  • Lawyers Don't Have to Be Expensive
  • Vesting Is Good for You
  • Your Brother-in-Law is Probably Not the Right Corporate Lawyer
  • To 83(b) or Not to 83(b), There Is No Question

「Form the Company Early」:友人数人と意気投合して取り敢えずプロジェクトを始めてしまった場合でも、契約を巻き込んだり訴訟沙汰になる可能性があるならば、個人の資産を守るためにも早い段階で企業登録しておくべき。このことは、プロジェクトのオーナーシップを明確にさせて後々の利益配分関係のトラブルを防ぐためにも重要。「Choose the Right Company Structure」: S-Corp、C-Corp、LLCなど、どんな形の会社にするのがよいのかの説明。やはり登録するならデラウェア州?などなど。

他の章でも、ファンドレイジングはどうするか、どのような構成のチームを作るのがよいのか、事業計画はどうするかといった「起業の入門書」として充実した内容。実際には自分で起業しないという人でも、カジュアルなエッセイ形式なので興味があれば誰が読んでも面白いと思う。講演が開催された時点ではまだリリースされていなかったKindle版も今はアマゾンで発売されている。

November 10, 2010

ティナ・シーリグのスタンフォード大講義録画

今年前半に日本でも話題になった「20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義」の著者Tina Seelig。来月ついに日本でも講演が予定されているそうだ。

Tina Seeligはスタンフォード大学工学部の技術経営を教える学科がホストするスタンフォード・テクノロジー・ベンチャーズ・プログラム(STVP)のエグゼクティブ・ディレクターである。スタンフォードでの実際の講義の公開録画を幾つか見つけたのでここにリンクを張っておくことにする。本を読むだけでは伝わってこないが、録画を観れば彼女がどんな感じの人物なのかや講義の雰囲気などがわかる。

録画は2006年と2009年のもの。講義のコンテンツは本でほとんどカバーされているが、2009年の方は講義全体の完全収録でスタンフォードの学生が作成したビデオクリップも紹介されており臨場感がある(アマゾンにも一部が掲載されている)。

ちなみに、これら録画を掲載してあるSTVP主催のECornerというサイトにはスタンフォード大にゲスト講師としてやってくる起業家を中心とした著名人らの講義録画が公開されている。例えば、最近のものではZappos.comのCEO Tony Hsiehのものがある。Twitterのアカウント@ECornerをフォローすれば次のゲストの情報などの通知を受け取ることができるので、ご興味のある方はどうぞ。


20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義
ティナ・シーリグ
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どのような逆境も上手く利用して好転させてしまえというメッセージが繰り返し語られるこの本は、永久保存版で座右の書だと思っている。何かに躓いたときだけでなく、定期的に読み返したい。もちろん、20歳の人だけではなく何歳であろうと目から鱗の内容満載の一冊である。

何事も"Turn Problems into Opportunities"のスピリッツで。