December 5, 2011

古くて新いもの:アップルのテレビへの取り組みは


しばらく前にプロダクトマネジメントの良書としてご紹介したMarty Cagan著の「Inspired」ですが、今回はそのブログエントリーの一つ、「The New Old Thing」(古くて新しいもの)を取り上げることから[1]

“What’s going to be the next new thing?” 
製品開発をするにあたって、次にヒットする新しいものは何だろう?

この答えは皆が血眼になって探しまわっています。

 "I have found that much more often than not, the next big thing is not something altogether new but rather a new incarnation of something old. The difference is that the new product does it so much better, faster, and/or cheaper that they end up redefining their category." 
それは全く新しいものというよりも、たいていは既に馴染みの古いものの生まれ変わりである。より改善されたもので、パフォーマンスもよくなり、安く手に入るものとして新たな立ち位置を既存のマーケットで革変を起こして確立するのだ。(それなのに、何か大きなヒットを生み出すには、全く新しいマーケットを確立しなければならないと信じている企業は多い。)

MP3プレイヤーが数多く存在していたなか、アップルがiPodとiTunesをリリースしてヒットさせたことを誰でも思いつく例としてMartyも挙げていますが、アップルは成熟マーケットでヒット製品を出すのが悪魔的に上手です。パーソナル・コンピューターもiPodもiPhoneすべて、その時点では成熟したと思われていたマーケットで革変を起こしてきました。ジョブズがテレビの開発に真剣に取り組んでいたらしきこと、それに絡んでアップルのテレビへの取り組みが随分と話題になっていますが、この歴史を考えてもそれはすごく自然な流れです。

「古くて新しいもの」をターゲットにすれば、マーケットは既に存在するし、それは皆に馴染みのあるものだから受入れられやすい。全く新しい製品を売り出す場合でも、馴染みの深い既存マーケットの製品名を引っ掛け、その機能を一部だけ取り込み、全く新しい機能で包みこんで出すのもその手。以前このブログでも書きましたが、iPhoneの場合も、電話の機能はおまけで、実はアップルが売りたかったのは超小型コンピューター。「phone」という世の中の誰もが馴染みのあるストリングが製品名に入っていたから、この全く新しい製品は消費者に容易に受入れられました。きっとアップルはテレビでも同じことを試みようとしているのでしょう。「TV」というなじみのあるストリングがついた「Apple TV」というセットトップボックスが既にありますが、これとは別にテレビらしきものをつくっているのだとすると、そこには従来のテレビ的機能もあるでしょうが、きっとそれは入り口にすぎず、その奥にはクリエィティブな新世界が広がっているにちがいありません。

Marty Caganの先ほどのエントリーに戻りますが、彼は成熟マーケットで勝つ製品を作るために大切なのは次の2点だといいます:

1. ターゲット市場と今ある製品の不十分なところを理解すること
2. それまでは不可能だった、または実用の目処が立たなかった新しい技術的ソリューションに注目すること

iPhoneやiPadなどのポータブルな小型端末があり、iCloudですべての端末のコンテンツが共有でき、Siriのような音声認識の機能が実用化された今、その環境で皆が共有できるリビングルームの大画面に期待されることは何なのか。アプリ開発者コミュニティを巻き込んだ参加型の環境になれば、そこからも新しいクリエイティブな用途が続々と出てくるでしょう。


ここ数日、アップル関係の分析で著名なアナリスト、Gene Munsterの予測がメディアで話題になっています。彼によると、アップルのテレビへの取り組みは次のようなものだそうです:

1. 既存のApple TVのようなセットトップボックスではなく、液晶ディスプレイのついた独立型のTVセット(ユーザはセットトップボックスを接続する手間を嫌うため)

2. サイズは何種類も用意している

3. 市場に出回っている普通のテレビの倍ぐらいの価格設定

4. 他のアップル製品およびその機能との連携:iPhone、iPadだけでなくSiriでコントロールできる。iTunesからゲームなどのコンテンツをダウンロードでき、iCloud経由でコンテンツがシェアできる。

5. チャンネルのコンセプトではなく、コンテンツ(例えばESPN)を直接呼び出せる

6. 1012年のクリスマスシーズンに向けて売り出される

(以上、Business Insiderより)

(1)については、テレビ買換えの出費を渋る消費者を見逃すのはもったいないので、中間移行手段として既存のApple TVセットトップボックスをアップデートしたものも同時に売りだすのではという説もあるようです。アップルは、Boot Campを用意してWindows OSをマック上で使えるようにしたなどの例でも、潜在ユーザの獲得が上手です。また、古くはClassic OSアプリのOS X上でのサポート、プロセッサをPower PCからIntelに切り替えたときもRosettaを提供するなど、製品上の大胆な変更をした場合に既存ユーザを逃さないことに手抜かりがありませんでした。Apple TVセットトップボックスの$99という値段は「お試し」価格として魅力的ですし、既存のApple TVセットトップボックスのユーザのことも考慮しているでしょう。こう考えると、Google TVがソニーTVへの組み込み型とLogitechのセットトップボックスのモデルと2通り出してるのと同じように2つオプションを出してきても不思議はありません。

 (5)について、John Gruberが「アプリが従来のチャンネルのような役割を担うようになってきている」と言っていますが同感です。(3)については、既に他のアップル製品がアップルブランドのプレミアム価格で成功していることを考えれば、高めのお値段となるのは当然といえましょう。


新しいテレビへの取り組みをしているのはアップルだけではなく、グーグルや大手家電メーカーなど動きが激しい。古くてとてつもなく巨大なテレビのマーケットで、あっといわせる革変を成し遂げるプレヤーは誰なのか。その辺りから目が離せないこの頃であります。


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[1]この本はもともとMartyが個人ブログで書いてまとめていたものなので、今でもブログサイトではその内容が読めるようになっています。

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