March 25, 2012

iPad活用法 ~ 医療業界の場合

新しいiPadを手に入れたところですが、そちらのレビューは既に出尽くしているので、iPadを活用した医療の話をご紹介します。












ちょと前のことになりますが、iPhoneやiPad、クラウドなどITを積極的に取り入れた医療環境の革新に取り組んでいらっしゃる神戸大学病院の杉本真樹先生とそのチームの皆さまがベイエリアを訪問中のところ、飲茶ランチをご一緒してお話する機会をいただきました。医療とテクノロジーの融合についてあれこれ話が盛り上がり、とても楽しい一時でした。メンバーが揃って飲茶のテーブルにいたところ、まず挨拶がわりにと杉本先生が鞄から取り出されたのが上の写真にある臓器の立体モデル。患者さんのCTから3Dプリンタを使い樹脂で作ったものだそうです。患者さんの臓器を「手にとって」手術前にシュミレーションをしたりすることができるようになり、臨場感のある練習が可能になります。臓器立体モデルの後に、プレゼントにいただいたのが杉本先生らの著書「新IT医療革命」。

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「新IT医療革命」に詳しく書かれていますが、杉本先生らチームの取り組みの中心は、iPadからクラウド上に保管されたデータを利用するところにあります。iPadは軽量で手軽に持ち運べ、バッテリーも長時間持続、起動時間も短いので、そこに患者さんのデータ(手術の記録、画像、血液検査の結果、入院中の生体情報など)を入れていおけば病院内でも出張医療であっても、すぐに参照することができます。アナログなデータの持ち運びやアクセスに時間がかかっていたところを省くことができ、緊急性のある現場でも大活躍するデバイスがiPadなのです。手術室にも手軽に持ち込め、キーボードがないので衛生面でも大きなメリットがあります(キーボードにはバイ菌が一杯で、病院でもそれがもとで感染が進むことも多いそうです)。

「新IT医療革命」では、ソフトバンクの孫さんと医師達の対談が中心に話が進みます。電子カルテというのはだいぶ前からできてきているそうですが、問題は規格が統一されていないことだといいます。その規格を国家が統一して「医療クラウド」なるものをつくればよいという考えには孫さんも強く同意しています。孫さん曰く、患者の情報が国家規格の医療クラウドに入っていれば、どこからでも自分の医療データにアクセスできる、「例えば、旅行先の岡山で事故に遭った。そのとき、普段の自分のかかりつけのお医者さんが持っている持病とかの情報を、その事故に遭った先のお医者さんが共有して見ることができれば、助かる確率が高まる」。高度なセキュリティのシステムに守られていれた「医療クラウド」にデータが保管されていればこうしたことが実現するのです。そして、事故現場や輸送期間中に活躍するのがiPadなどのモバイルでのデータ分析。一刻を争う現場ですぐにデータ分析を始めることができるのです。

なお、杉本先生は、医療用画像処理ソフト「OsiriX」(オザイリクス)の開発者の一人です。OsiriXのiPadアプリを利用して、CTスキャンから取り込んだ画像を見ながら手術を行う様子はこちらのビデオでも紹介さています。医療用画像といえば、DICOMがフォーマットとして標準なのですが、私は昔、DICOMメタデータ処理の機能を某著名画像処理ソフト用に実装したことがあり、こうしたソフトを見るのはその時を思い出してちょっとした感激がありました。



テクノロジーが医療の現場をどんどん進化させていき、ネット、iPadやそのアプリの普及によって誰でもその優れたサービスが手軽に利用できるようになってきたのはありがたいことです。Wifi体重計のことを以前書きましたが、日本に住む両親にもこの体重計をプレゼントしました。「今からコレに毎日乗る癖をつけておけば、遠距離からでも何かあったらわかるようになるからね。それに、テクノロジーを使う練習をすればボケ防止になるし。」と親孝行なのか嫌味なのかが微妙なコメントをつけて贈ったのですが、結構気に入って使ってくれているようです。Withingsには血圧測定器もあってそちらもプレゼントしたかったのですが、これはiPadかiPhoneがないと使えなく、iPhoneはもちろんiPadもまだ所有していない両親にはどうしようかなと思っていたところ新しいiPadを買ったので、お古のiPad2と一緒に送ったところです(サプライズでこっそりと)。両親とも「iPadなどいらん」と言っていたので、さてどうなることやら。



January 19, 2012

Googleのself-driving carをミタ


年が明けて間もないその日、友人とサンフランシスコで昼食会をし、うららかな午後の日差しの中ハイウェイ280を南下していると、ピカピカしたものを回転させながら通り過ぎる車がいきなり眼中に。一瞬、パトカーか、と思いましたが、そうではなく噂に聞いていた、かのGoogleのself-driving carではありませんか。グレーのプリウスに大きくGoogleのロゴ、上で回転しているのはLIDARセンサー。自動操縦車といっても、前部座席に人が2人ちゃんと乗っていました。目下のところ、完全無人の車両が公共道路を走ることが合法なのは米国ではネバダ州だけだそうです。ネバダ州で合法なのはGoogleが説得したからだとか。

自動操縦車の実物が走っているのを見たのはこれが始めて、かなり感激しました。しばらく尾行しつつ、走りながら右に左に車を近づけて中を覗き込み、写真を取ったりとはしゃいでしまいました。そのGoogle車はハイウェイでかなり人目を引いていましたが、ひょっとしたら私の方が目立っていたかもしれませんね。大昔、学生時代に履修したArtificial Intelligence(人工知能)の授業を思い出しました。使われていた教科書にはニューラル・ネットワークを利用したAlvinnという実験段階にある自動操縦車らしきものの記述があり、そのビデオを見た記憶があります。Artificial Intelligenceというロマンのある響きに心躍らせながら履修したクラスでしたが、サイエンス・フィクションから思い描く世界と、当時実現可能だった現実との乖離になんとなく落胆しながらLispで色々なプログラムを書きました。あれからかなりの年月が経過して、ついにGoogleの実験車がハイウェイを走行しているのを目撃したのです。John McCarthyは去年他界してしまいましたが。アップルはiPhone 4SでSiriの実装をリリースしたし、ずっと長い間サイエンス・フィクションの世界で思い描いていたものが、ようやく現実のプロダクトになるのを体験するのはわくわくしますね。今年もAI分野では面白い発表が沢山ありそうです。














ハイウェイで撮影したGoogle車の写真をFacebookに投稿したら「Like」ボタンを押してくださった方が多数いましたので、ブログでも公開することにしました。

そんな訳で、新年おめでとうございます。本年度もよろしくお願いいたします。


December 5, 2011

古くて新いもの:アップルのテレビへの取り組みは


しばらく前にプロダクトマネジメントの良書としてご紹介したMarty Cagan著の「Inspired」ですが、今回はそのブログエントリーの一つ、「The New Old Thing」(古くて新しいもの)を取り上げることから[1]

“What’s going to be the next new thing?” 
製品開発をするにあたって、次にヒットする新しいものは何だろう?

この答えは皆が血眼になって探しまわっています。

 "I have found that much more often than not, the next big thing is not something altogether new but rather a new incarnation of something old. The difference is that the new product does it so much better, faster, and/or cheaper that they end up redefining their category." 
それは全く新しいものというよりも、たいていは既に馴染みの古いものの生まれ変わりである。より改善されたもので、パフォーマンスもよくなり、安く手に入るものとして新たな立ち位置を既存のマーケットで革変を起こして確立するのだ。(それなのに、何か大きなヒットを生み出すには、全く新しいマーケットを確立しなければならないと信じている企業は多い。)

MP3プレイヤーが数多く存在していたなか、アップルがiPodとiTunesをリリースしてヒットさせたことを誰でも思いつく例としてMartyも挙げていますが、アップルは成熟マーケットでヒット製品を出すのが悪魔的に上手です。パーソナル・コンピューターもiPodもiPhoneすべて、その時点では成熟したと思われていたマーケットで革変を起こしてきました。ジョブズがテレビの開発に真剣に取り組んでいたらしきこと、それに絡んでアップルのテレビへの取り組みが随分と話題になっていますが、この歴史を考えてもそれはすごく自然な流れです。

「古くて新しいもの」をターゲットにすれば、マーケットは既に存在するし、それは皆に馴染みのあるものだから受入れられやすい。全く新しい製品を売り出す場合でも、馴染みの深い既存マーケットの製品名を引っ掛け、その機能を一部だけ取り込み、全く新しい機能で包みこんで出すのもその手。以前このブログでも書きましたが、iPhoneの場合も、電話の機能はおまけで、実はアップルが売りたかったのは超小型コンピューター。「phone」という世の中の誰もが馴染みのあるストリングが製品名に入っていたから、この全く新しい製品は消費者に容易に受入れられました。きっとアップルはテレビでも同じことを試みようとしているのでしょう。「TV」というなじみのあるストリングがついた「Apple TV」というセットトップボックスが既にありますが、これとは別にテレビらしきものをつくっているのだとすると、そこには従来のテレビ的機能もあるでしょうが、きっとそれは入り口にすぎず、その奥にはクリエィティブな新世界が広がっているにちがいありません。

Marty Caganの先ほどのエントリーに戻りますが、彼は成熟マーケットで勝つ製品を作るために大切なのは次の2点だといいます:

1. ターゲット市場と今ある製品の不十分なところを理解すること
2. それまでは不可能だった、または実用の目処が立たなかった新しい技術的ソリューションに注目すること

iPhoneやiPadなどのポータブルな小型端末があり、iCloudですべての端末のコンテンツが共有でき、Siriのような音声認識の機能が実用化された今、その環境で皆が共有できるリビングルームの大画面に期待されることは何なのか。アプリ開発者コミュニティを巻き込んだ参加型の環境になれば、そこからも新しいクリエイティブな用途が続々と出てくるでしょう。


ここ数日、アップル関係の分析で著名なアナリスト、Gene Munsterの予測がメディアで話題になっています。彼によると、アップルのテレビへの取り組みは次のようなものだそうです:

1. 既存のApple TVのようなセットトップボックスではなく、液晶ディスプレイのついた独立型のTVセット(ユーザはセットトップボックスを接続する手間を嫌うため)

2. サイズは何種類も用意している

3. 市場に出回っている普通のテレビの倍ぐらいの価格設定

4. 他のアップル製品およびその機能との連携:iPhone、iPadだけでなくSiriでコントロールできる。iTunesからゲームなどのコンテンツをダウンロードでき、iCloud経由でコンテンツがシェアできる。

5. チャンネルのコンセプトではなく、コンテンツ(例えばESPN)を直接呼び出せる

6. 1012年のクリスマスシーズンに向けて売り出される

(以上、Business Insiderより)

(1)については、テレビ買換えの出費を渋る消費者を見逃すのはもったいないので、中間移行手段として既存のApple TVセットトップボックスをアップデートしたものも同時に売りだすのではという説もあるようです。アップルは、Boot Campを用意してWindows OSをマック上で使えるようにしたなどの例でも、潜在ユーザの獲得が上手です。また、古くはClassic OSアプリのOS X上でのサポート、プロセッサをPower PCからIntelに切り替えたときもRosettaを提供するなど、製品上の大胆な変更をした場合に既存ユーザを逃さないことに手抜かりがありませんでした。Apple TVセットトップボックスの$99という値段は「お試し」価格として魅力的ですし、既存のApple TVセットトップボックスのユーザのことも考慮しているでしょう。こう考えると、Google TVがソニーTVへの組み込み型とLogitechのセットトップボックスのモデルと2通り出してるのと同じように2つオプションを出してきても不思議はありません。

 (5)について、John Gruberが「アプリが従来のチャンネルのような役割を担うようになってきている」と言っていますが同感です。(3)については、既に他のアップル製品がアップルブランドのプレミアム価格で成功していることを考えれば、高めのお値段となるのは当然といえましょう。


新しいテレビへの取り組みをしているのはアップルだけではなく、グーグルや大手家電メーカーなど動きが激しい。古くてとてつもなく巨大なテレビのマーケットで、あっといわせる革変を成し遂げるプレヤーは誰なのか。その辺りから目が離せないこの頃であります。


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[1]この本はもともとMartyが個人ブログで書いてまとめていたものなので、今でもブログサイトではその内容が読めるようになっています。

December 1, 2011

Path 2.0 やっぱりライフログなの?



水曜日にリリースされた、Pathアプリの2.0アップグレードが結構話題になっていますね。UIの出来上がりの美しさと、新機能が好評のようです。

Pathは、上限150人の比較的少人数のソーシャル空間で、写真、ビデオ、メッセージなどを共有できるモバイル用のサービス。iPhoneとAndroidプラットフォームのサポートがあります。Facebookの初期メンバーでFacebook Connectの発案者のひとりでもあるDave Morinが共同創業者、出資もKleiner PerkinsやDigital Garageなど一流どころから受けています。今年始めには、Googleから1億ドル以上の買収のオファーを蹴ったということでも話題になりました。

これまでPathのUIはシンプルで洗練されたデザインが印象的でしたが、今回のアップデートでも新機能や既存機能を綺麗なUIデザインでまとめています。音楽シェアが出来るようになったり、睡眠モードの設定がついたり、より多くの日常場面を操作よく記録できるようになりました。睡眠モードにすると月が画面の下から登ってくるアニメーションは、楽しくて何度も試してしまう程。狭い画面に綺麗に美しく実装されたUIは、ちょっと玉手箱を開けるときのようなわくわく感があります。

こちらの記事にもありますが、Facebokよりも少人数に絞り、よりパーソナルな情報を共有することを狙いとしているようで、日記のように使っているユーザも多いとのこと。睡眠時間も記録するとなると、先日も話題にしたライフログにかなり近い感じがします。近ごろ使っているJawboneのUPの結果と合わせれたらよいのにと思ったら、同じように感じる人はやはり多いのでしょう、TechCrunchにもそんなことを書いた記事が出ていました。Dave Morinいわく、

  “It used to be that people would be online or off. Nowadays with mobile, it’s more like asleep or awake.” 
 「今までは、オフラインかオンラインだった。近頃のモバイルでは、寝ているか起きているかだ。」

いよいよ、ライフログがソーシャルのベースにも本格的に入り込んできたということでしょうか。UPやWithings体重計にもソーシャル機能がついていて、結果を共有することができます。私は、あまりパーソナルな情報は誰かと共有したいとは思いませんが、自分用に日記のようにまとめることができれば便利かなと感じます。文章、健康管理の記録だけでなく、写真やその他のミニ情報もモバイルベースで手軽に記録できるUIの綺麗な日記は継続もしやすそう。今回のアップグレードは全体的にかなりよかったというものの、継続して使うほどの魅力にはもう一工夫必要な印象。次のアップグレードではこの辺りに期待しています。

Facebookのタイムラインといい、これからライフログ系が盛り上がってくる予感がします。

November 27, 2011

【書評】「自分のアタマで考えよう」

自分のアタマで考えよう
ちきりん
ダイヤモンド社
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知り合いのブログで話題になっていたので読んでみました。

論理思考の本です。少子化などの社会問題からはじまり、婚活や主婦の料理プロセス比較などにまでもフレームワークをあざやかに使って分析しているのが面白いです。問題をどんどん分解して漏れなくダブりなく分類、収集したデータをあてはめ、グラフを使って視覚的に分析。問題を電動ミキサーにかけるがごとく、バリバリと論理的に解いていくのが痛快です。「知っていること」と「考えること」はまったく別モノであることを説明する序章から始まりますが、日常で物事を判断するときに、知識から結論を下さず、ちゃんとデータをもとに論理的に考えて仮説を検証していく癖をつけなければならないな、と意識させてくれる本です。ネットの力を借りれば、かなりのデータを誰でも収集できるようになった今、それを効果的に分析して論理的に「考える」力をつけることは重要なスキルとなるでしょう。

最近、日本からシリコンバレーを訪問中の大学生さんと就職やキャリアパスについて話す機会がありました。偶然そのときに話題になったのが、ちゃんと自分で「考える」ということ。世間一般、マスコミで騒がれていることが間違っていることは多々あります。その大学生さんを相手に私が話題にしたのは、「商社不要論」と「ソフトウェアエンジニアのアウトソーシング」について。日本でバブルが崩壊したころから商社不要論がマスコミで取り上げられてきました。けれども、それから20年ほどが経過した今でも総合商社はなくなってはいないし、最近の日経新聞に掲載されていた学生の人気就職ランキングでは伊藤忠商事がトップでした。「ソフトウェアエンジニアのアウトソーシング」が叫ばれ始めたのは、アメリカでドットコムのバブルが崩壊した2000年ごろ。そのまっただ中、シリコンバレーでソフトウェアエンジニアをしていた私は、変だなぁと思っていました。少なくともシリコンバレーにおけるソフトウェアエンジニアと呼ばれる仕事は、あらゆる技術的ソリューションをリサーチしながらコードに落としていくような仕事。マーケットや社内のフィードバックを迅速にとりいれて検証しながらアウトプットを出していく。ソフトウェアを主力とした企業では中枢になる機能です。ハードウェアのように、組立の詳細を仕様に落し込み、あとは工場で組み立てるだけのプロセスがアウトソースされるのとはまったく事情が違うのです。当時ソフトウェアエンジニアの仕事が先進国からなくなると言われ始めたので、大学のコンピューターサイエンス学科では人が集まらなくなって定員割れしたりしました。ところが、やはり物事の真実の原則は変わらない、アウトソースではダメだと後になって皆が気づきました。2011年の今、シリコンバレーでソフトウェアエンジニアはどこの企業でも引っ張りだこ、コンピューターサイエンスは大学の超人気学科です。

日本の教育を受けると、「考える」ことよりも「受け入れる」ことを選択してしまう方向に流れがちですが、「考える技術」を日常でも意識して積極的に取り入れていかなければならないですね。ふつうはビジネス書などで扱われるフレームワークの応用の説明などを、ビジネス書としてではなくカジュアルな雰囲気で誰でも手にとって読みたくなるような雰囲気にしてあるところも素敵な本書ですが、論理思考がより多くの人に馴染みのあるものになれば世の中も変わってくるかもしれませんね。

November 25, 2011

WithingsのWi-Fi体重計とライフログのすすめ

前回のエントリーでは、Jawbone UPのプロダクトレビューを書きましたが、今回も健康用ガジェットのレビューから。少し前から使っている、WithingsWi-Fi Body Scaleがすごく調子いいです。周りの人たちがみんな[*]持っているので、つられて買ったこの体重計、どうしてもっと早く買わなかったんだろうと思うぐらい秀逸です。ちょっと安直な感じがする製品名のとおり、乗るだけで体重と体脂肪の測定結果がWifi経由で自動的にウェブアカウントに送信記録され、グラフ化されます。過去の記録は、ブラウザ、iPhone・Androidアプリで確認できます。体重を毎日測り、手入力で記録をつけてもよいのですが、やはりちょとしたところで自動化すると継続し易いです。健康や美容のために体重を減らすもしくは維持するには、記録とその数値をグラフ化するのがどれほど効果的かはよく知られていることですが、他の何をするよりもまずこの体重計を手に入れるべしといっても過言ではないかもしれません。

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 Withings Wifi Body Scale [米国]

Jawbone UPと併用してかなりいい感じですが、かのMichael Arringtonもこの2つを愛用しているご様子。体重、食事、運動量のログは、何年も記録し続けることで長期的な健康管理にも役立ちそうです。

先日、gihyo.jpさんに「人生の記録〜ゴードン・ベル」という記事を書かせていただきました。8月に開催されたエバーノート技術カンファレンスのセッションをまとめたもので、MicrosoftでMy LifeBitsという究極のライフログプロジェクトに長年取り組んでいるゴードン・ベルの話です。記事にも書きましたが、このプロジェクトでは、ゴードン自身が被験者となって、身の周りにある本,書類,写真,CD,画像など日常のあらゆる情報をデジタル化して記録する生活を続けます。ゴードンは、近いうちに皆が自分と同じことをやっている日が来ると言っていますが、私自身も近頃の生活では、Jawbone UPで運動・睡眠・食事を記録、Withingsで体重を記録、Foursquareで訪問先をチェックイン、Lemonでレシートをスキャン、Mintで家計を記録、ウェブで読んで気になった記事をブックマーク・クリップ、なんてことをしているので、彼とさほど変わらないことをやっていますね(笑。もちろん、世間でも同じような生活をしている人は多いでしょう。

My LifeBitsプロジェクトは1945年にヴァネヴァー・ブッシュが「As We May Think」という論文で発表したmemexをモデルとしたもの。ヴァネヴァー・ブッシュはマンハッタン計画に参加し、原子爆弾の開発に携わった人物として知られ、Webのハイパーテキストの概念もこの論文に影響を受けています。「As We May Think」の原文はこちらで全文が無料で読めるようになっていますが、以下はそこにあるmemexの描写の一部です。日本語訳は「思想としてのパソコン」に収められているようです。

"A memex is a device in which an individual stores all his books, records, and communications, and which is mechanized so that it may be consulted with exceeding speed and flexibility. It is an enlarged intimate supplement to his memory. 
It consists of a desk, and while it can presumably be operated from a distance, it is primarily the piece of furniture at which he works. On the top are slanting translucent screens, on which material can be projected for convenient reading. There is a keyboard, and sets of buttons and levers. Otherwise it looks like an ordinary desk.
In one end is the stored material. The matter of bulk is well taken care of by improved microfilm. Only a small part of the interior of the memex is devoted to storage, the rest to mechanism. Yet if the user inserted 5000 pages of material a day it would take him hundreds of years to fill the repository, so he can be profligate and enter material freely."

これらプロジェクトの話は、ゴードンの著書「Total Recall」に詳しく書かれていて、「ライフログのすすめ」という題名で日本語にも訳されています。ゴードンが共同研究者のジム・ゲメルと書いているブログサイトも、Facebookのタイムラインのことなどが取り上げられていて面白いです。

記憶力の限界を超えて見るもの聞くもの全てを記録するようになり、必要なことはすべて検索して取り出せる。半世紀も前の構想がかなりリアルに感じられるようになった今、これら関連書籍をまとめて読んで、「記録」することから広がるあらゆる可能性について考えてみたいと思いました。


ライフログのすすめ―人生の「すべて」をデジタルに記録する! (ハヤカワ新書juice)
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Total Recall: How the E-Memory Revolution Will Change Everything


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*ここでいう「みんな」とは、ガジェットオタク系の人たちなので、他では誰も持っていないかもしれません。

November 18, 2011

Jawbone UP プロダクトレビュー


先週7日にJawboneから発売されたフィトネス用のリストバンド「UP」を使ってみました。

Jawboneは小型でスタイリッシュなヘッドセットなど、Bluetoothを使ったアクセサリ製品で有名ですが、起業にまつわる某カンファレンスセッションでセコイヤキャピタルのパートナー、ロエロフ・ボーサ氏が「長くやり続けたから勝てた」というスタートアップの例にも出てきます。ロエロフ氏いわく「長くやり続けるより、早く止めすぎるほうがリスクが高い。起業家というのは普通の人よりも早く気づく人たちだ。マーケットが成熟するまでもう少しやり続けるほうが正しい場合が多い」という話でした。Jawboneはスタンフォード大学の学生2人がノイズキャンセリングヘッドホンのアイデアを題材に'99年に創業したのですが,当時はBluetoothの技術がなかなか進化せずマーケットのタイミングが悪く倒産。しかし創業者たちは諦めませんでした。そうこうしているうちにBluetoothの技術がついに成熟して会社を再建することができたのです。[1]

さて、はじめから話がそれてしまいましたが、今回発売になったリストバンドは在庫が追いつかないぐらいの人気です。先週7日に発売されて、まだそれ程長い間使った訳ではないですが、今のところの使用感をざっと書いておきます。


使い方はシンプル。リストバンドをつけて生活し、iPhoneのアプリと組み合わせて使います。そうすることで、睡眠、運動量、食事のパターンを測定および記録し、健康状態の改善を目指します。

[運動]

要は万歩計。何歩歩いたかをリストバンドが測定し、結果を専用のiPhoneアプリで見ます。ジムに行って運動したりする場合、リストバンドのボタンを2度押しすることによって、その期間内だけの運動量を区切りをつけて測定することができます。

[睡眠]

リストバンドをつけて寝ると、熟睡状態とそうでない時のパターンを測定してくれます。目覚まし機能を設定すれば、そのパターンの切り替わったところで振動して起こしてくれます。 睡眠パターンは、寝ている間の身体の動きの頻度を元に単純に測定しているだけなので、いわゆるノンレム、レム睡眠のサイクルとは必ずしも一致しないとのこと。

[食事]

食事の機能はリストバンドに依存していません。食事をする度にiPhoneのアプリで食べ物の写真を撮ってアップロードするだけ。数時間すると、その食べ物を食べた後の気分はどうかと尋ねる通知がプッシュ機能で来るので、ふさわしい気分を表している顔アイコンを選びます。


リストバンドをiPhoneのヘッドフォーンジャックに挿し込んで測定結果をソフトウェアと同期するのですが、そうすると、睡眠、運動、食事のパターンが時系列でグラフ上に表示されます。一定期間分のデータを俯瞰して見ることにより、パターンを知り改善点を明確にするのに役立ちます。


こうした健康グッズを使い始めると、とりあえず健康に対する意識が高まるのはとてもよいです。一日何歩歩くかなどの目標設定ができるので、それを目指して積極的に動くようになりますし、何を食べるかにも意識が向きます。ダイエットに毎日の体重測定の結果を記録するのが効果的なのと同じで、「記録」することの効果を感じますが、そのプロセスを楽しく効率よく実行させてくれる製品です。

リストバンドには振動によるアラーム機能がついていますが、大変気に入っています。私は朝は大変弱く、毎朝起きる時は大変な苦痛なのですが、目覚まし時計の音はこの世で最も嫌いなもののうちの一つといってもよいくらい、吐き気を催すほど嫌。これは「音」によって眠りからひきずり出されることに非常な不快感を感じるからなのでしょうが、リストバンドの振動だと気持よく目覚めることができるのです。睡眠サイクルのタイミングのよいところで起こしてくれるということもありますが、音より振動の方が目覚めにソフトな刺激だというのはちょっとした発見でした。また、リストバンドの振動アラームは、目覚まし機能のためだけではなく、起きている間に活動を促すためにも利用する設定ができ、これが最高です。間隔は15分や1時間など自由に調整でき、設定した間隔を過ぎても動かずにいると振動で知らせてくれるのですが、この機能、一日中座りぱなしでコードを書いているようなエンジニアなどにすごくお薦めです。私にも経験がありますが、長時間同じ姿勢でコンピューターに向かっていると、首や肩の関節、神経を痛めたり、腱鞘炎になったりして大変なことになります。そうした場合、医者に行くと「一時間に一度は必ず立ち上がって動いてください」と言われますが、仕事に没頭していたりすると忘れてしまいます。このリストバンドがあればその問題も解消できます。UPと類似製品のfitbitとの比較が多くなされているようで、そちらも気になりますが、UPのこの振動機能はポイントが高いです。

fitbitと違い、iPhoneアプリとの同期はワイヤレスではありませんが、Bluetoothを使った秀逸なアクセサリの開発で知られるJawboneの製品ですから、将来的には何かアップデートを考慮しているのかどうか気になるところです。

完全防水なのでプールやシャワーも大丈夫と説明書にありますが、私はシャワーはかなり高温なので入浴中は外します。高温には弱いと書いてあるので、日本の湯船などもダメかもしれませんね。リストバンドは常時つけていてもそれ程気になりませんが、ある程度パターンが把握できるようになったら、睡眠時間だけ常用して、あとは適宜軌道修正するときだけ着装するということになりそうです。

マイナス面は、iPhoneアプリの出来が未熟だということ。バグもまだあちこちにあるし、UXも改善すべきところがかなり目立ちます。まあ、その辺りのソフトウェアの問題はこれからアップデートをリリースしてくれることを期待しています。食事のところもカロリー計算などもう少し工夫が欲しいところです。あと、今のところiPhoneアプリだけですが、ウェブアプリもあると便利かなと思います。

以上、まだ使用した期間は短いですが、かなり満足度は高いです。お値段は$99.99で、ちょっと高いような気もしますが、風邪をひいただけでも生産性の低下などを考慮すれば損害は$99.99ではすまないはず、と考えれば健康に投資する額としてはリーズナブルでしょうか。アメリカ人は健康に対する意識が異常に高いことで国際的にも有名ですが、彼らいわく「健康のためなら死んでもいい」のスピリッツを少し見習って頑張ってみましょう、という気分にさせられた健康用ガジェットです。



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** 今回は「です、ます」調で書いて見ました。
[1] 8月に開催されたEvernote技術カンファレンスの記事をこちらで書かせていただきました。